円形脱毛症は、ある日突然脱毛し始め、範囲は最小で10円玉くらいから、最大で全身に至るものまであります。多くの場合は半年から1年程で自然に発毛してきますが、繰り返し脱毛が起きたり、脱毛範囲・箇所が増えてしまう場合もあります。
本来なら身体を守る「免疫」というシステムに異常が生じ、自分の身体を攻撃してしまう「自己免疫疾患」と考えられ、成長期にある毛包がリンパ球の攻撃を受けることで頭髪が抜けると考えられています。
どのような原因でリンパ球が毛包を攻撃するようになるかは、明確には解明されていません。
アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を持つ人の場合、円形脱毛症の発症が多くなるといわれています。
※2022年6月20日、JAK阻害薬「オルミエント」に円形脱毛症の適応が追加されました。
オルミエントは国際的な臨床治験で治療効果が証明された円形脱毛症に対する初めての内服治療薬です。
内服治療ができるのは、15歳以上の円形脱毛症(過去6ヶ月程度毛髪に自然再生が認められない)の患者さんで、脱毛面積が頭部全体の概ね50% 以上の方です。
オルミエントはJAK阻害薬というジャンルのお薬ですが、JAK阻害薬は免疫の働きの一部を抑える作用があり、免疫が関与する疾患に対して治療効果を発揮します。
国内では2013年から関節リウマチの治療薬として発売されていて、2020年からは中等症以上のアトピー性皮膚炎治療薬として追加承認されています。
また、新型コロナウイルス感染症による肺炎にも承認されています。
円形脱毛では毛包組織に対する自己免疫反応が関与して発毛を阻害していることがわかっていますので、その異常な免疫を抑えて頭髪や眉毛、睫毛などの脱毛の改善が期待できます。
休止期脱毛とは、休止期が3ヶ月以上延長したり、成長期から急に休止期に移行したり、休止期から成長期に戻らなかったりすることで、脱毛の発生や、緩やかに毛の密度が低下する変化と考えます。
休止期では抜けた毛根は棍棒状(マッチ棒のような形)です。
外傷ややけど、感染などで頭部が瘢痕化し、髪が生えてこなくなる脱毛症です。毛を産生するのに重要な「毛包」と呼ばれる部分も同時に障害を受けることになり、髪の毛の再生ができなくなってしまいます。円形脱毛症との鑑別のため、皮膚生検で判定することもあります。
脱毛範囲の拡大を防ぐ目的でステロイドが使用されます。
先天性乏毛症は、生まれつき髪の毛の量が少なく縮毛となる疾患で、常染色体劣性遺伝(※)の形式をとる遺伝性疾患です。日本人には1万人~2万人に1人といわれています。
先天性乏毛症を発生させる要因(原因遺伝子)はいくつかありますが、日本人における先天性乏毛症の多くは、LIPH遺伝子の変異によるものだと考えられています。
このLIPH遺伝子が異常を起こすために、必要なLPA(リゾホスファチジン酸)を生成できず、毛の脆弱化や成長障害、毛包形成異常などが起こり、乏毛症を生じます。
日本人の先天性乏毛症の9割はこのLIPH遺伝子の異常(欠損)が原因といわれています。
特定するには、遺伝子検査を行います。検査方法は、髪の毛や血液をわずかに採取し、特定します。(現在、遺伝子検査は行っておりません)
先天性乏毛症のメカニズムは解明されてきているため、近い将来は薬によって改善が可能になることが期待されていますが、治療法はまだ確立されていません。遺伝子治療(遺伝子に対してアプローチする方法)や、LPA(リゾホスファチジン酸)と同じ働きをする物質を探ることなど、多角的にその治療法が模索されているさなかです。
※常染色体劣性遺伝
両親から受け継いだ遺伝子はすべてペアで持っているので、どちらか片方に変異があってももう片方の遺伝子がカバーして必要なタンパク質を作っているため問題はおこりません。しかし、たまたま同じ部分に変異がある劣性遺伝子を持つ両親の間に、変異が2つ揃った子どもが生まれる場合があります。その場合には必要なタンパク質が作られないので症状が出ます。この両親に生まれる子では、25%(1/4)の確率で症状が出る可能性があります。特徴として、子どもに症状が現れた場合は両親のどちらもがその病気の保因者であると考えられます。男女差はありません。親族に同じ症状を持つ人がいなくても、生まれてくる子どもだけが遺伝性疾患による症状を持つことがあります。ちなみに誰でも何らかの変異遺伝子を数個持っており、これらは1個では身体に症状を起こすことはありません。
AGAとは、AndroGenetic Alopecia(男性型脱毛症)の略で、遺伝と男性ホルモンが関与する、全頭・頭頂部に生じる進行性の脱毛症です。
FAGAとは、「Female(女性の)AGA」(女性男性型脱毛症)のことです。AGA(男性型脱毛症)は男性に起こる進行性の脱毛症のことを示すのに対し、FAGAは文字通り、女性に起こる脱毛・薄毛のことを示します。卵巣や副腎で作られている男性ホルモンにより、毛を作る細胞が男性ホルモンの影響を受けやすい体質を持っていると、男性型脱毛症が生じます。
女性男性型脱毛症の発症時期は30歳前後に気づく方もいますが、さらに高年であることが一般的です。
治療には、ミノキシジルなどの外用薬を使用することが最も効果的です。ミノキシジルは毛母細胞の成長を促すことで発毛作用が認められている成分です。
日本では、1%ミノキシジル溶液が一般用医薬品として承認・発売されましたが、海外では2%溶液の1日2回塗布、5%の溶液の1日1回塗布が女性用として一般的に使用されています。